現代社会では、仕事や生活環境からくるストレスが心身に影響をおよぼすことは避けられません。そのなかで注目を集めているのが、植物の香りを活用したアロマテラピー(アロマセラピーともいう)です。古くから愛用されてきたこの自然療法は、リラクセーション&ストレス軽減に役立つだけでなく、科学的な研究でもその効果が確認されてきています。
本記事では、アロマテラピーおよび精油(エッセンシャルオイル)の基本知識とその効果、そして、忙しい日常でも簡単にとりいれられる実践法をご紹介します。植物の香りを活用して、ストレスを和らげ、心身のバランスを整えましょう。
- アロマテラピーの基本と科学的根拠
- アロマテラピーには、高品質な精油を使用
- ストレス軽減に役だつ精油の種類と効果
- アロマテラピーの実践的な活用法
- 安全にアロマテラピーを楽しむために
- 特定の状況での注意点
- まとめ
アロマテラピーの基本と科学的根拠
アロマテラピー(aromatherapy)は、aroma (芳香)とtherapy(療法)をくみあわせた造語で、日本では、「芳香療法」と訳されます。もともとは、植物の香りがもつ力を利用する薬物療法を指し、単なるリラクセーションだけでなく、伝統的な治療法の一つとして発展してきました。
アロマテラピーは、「芳香療法」
植物から抽出される濃縮物である「精油」を用いた治療は、紀元前3000年頃にメソポタミア文明で使われていたことが考古学的に確認されていて、世界の各地域で独自に発展してきました。近代医学が発達する以前、人々の健康維持に役だってきたこれらの知識は、今なお伝統医学や民間療法として受け継がれています。
アロマテラピーの定義は時代によって変わってきており、また、国によっても意味は異なります。
日本では、江戸時代に日本に伝わった蘭方医学において精油は、「薬」として利用されていました。しかし、「アロマテラピー」としては、1980年代に「イギリス発の自然派美容マッサージ」として導入されたため、日本では、医療というより美容やリラクセーションの一環として認知されています。ちなみに、単に香りを楽しむことも、「アロマテラピー」にふくめることもあります。
アロマテラピーは、とくに、心身のリラクセーションやストレスケアに効果的であることが確認されており、現代のストレス社会において、オプティマルヘルス(最高の健康)をめざすための有効な手段として注目されています。
アロマテラピーの主役は精油
アロマテラピーの主役は、植物の花、葉、果皮、樹皮、根などから主として水蒸気蒸留により抽出される天然成分の濃縮物である精油(エッセンシャルオイル)です。精油の小さなボトルには、植物がもつ何千もの化学成分が凝縮されており、これが香りや効果の源となっています。
たとえば、ラベンダー精油の主要成分であるリナロールは、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑える効果が確認されています。また、柑橘系精油にふくまれるリモネンは、気分を高揚させ、緊張をやわらげる作用があることが報告されています。
さらに、ペパーミントやローズマリーの香りは、集中力や注意力を高める効果があり、日常のストレスだけでなく、仕事や勉強の場面でも役だつ香りとして注目されています。これらの効果は、いくつかの臨床研究や実験で実証されており、アロマテラピーが単なるリラクセーション手段ではなく、科学的根拠に基づいたストレスケア法であることを示しています。
アロマテラピー効果のメカニズム
アロマテラピーの効果は、「嗅覚」と「皮膚吸収」をつうじて発揮されます。
◆嗅覚経由のメカニズム
精油の香りをかぐと、香りの成分(ニオイ分子)が鼻の奥にある嗅覚センサー(嗅細胞)に届き、これが電気信号に変換されて脳に伝わります。この信号は、大脳のなかでも感情や記憶をつかさどる「大脳辺縁系」(扁桃体・海馬)にダイレクトに届くため、香りによって気分が変わったり、過去の記憶がよみがえったりするのです。
また、嗅覚刺激は、(脳の)視床下部にも影響をあたえます。視床下部はホルモン分泌や自律神経の調整をおこなっているため、香りによってリラックスしたり、ストレスが和らいだりするのはこの仕組みが関係しています。
◆皮膚吸収によるメカニズム
精油を使用したマッサージでは、精油の成分が皮膚をつうじて体内に吸収されるといわれます。精油の成分の多くは脂溶性(油にとけやすい)で、皮膚のバリアを比較的容易に通過できます。一部の成分は毛細血管に入り、血流にのって全身を巡ります。
また、マッサージそのものによる適度な刺激は、筋肉や身体緊張の緩和をもたらしてくれます。血行も促進されるので、精油の成分がより効率的に全身に広がります。さらに、香りをかぐことで嗅覚からも影響をうけるので、アロママッサージは、心身に一石三鳥、まさにトリプル効果をもたらしてくれるのです。
アロマテラピーに科学的根拠はあるの?
アロマテラピーの効果は、長年の経験的な知見から活用されてきましたが、科学的な研究はまだ発展途上です。香りが脳や自律神経に与える影響は確かに存在するものの、精油の成分がどのように細胞レベルで作用するのか、すべてが解明されているわけではありません。アロマテラピーの効果や適応は伝承や経験による部分が大きいといえます。
過去の研究では実験データが少なく、精油の品質や研究デザインの問題もあり、明確な結論が得られていません。また、ランダム化比較試験が難しいことや、精油の偽装問題(後述)も、科学的評価を難しくしています。
しかし、それが「根拠がない=効果がない」というわけではありません。アロマテラピーは、がん患者や妊産婦のケアにとりいれられており、睡眠促進や筋肉の緊張緩和、ストレス軽減などの効果も経験的に認められています。
伝統医療や民間療法の多くは、科学が証明する前から人々に実践され、その効果を実感されてきたものです。長い歴史を通じて受け継がれてきたアロマテラピーの使用実績こそが、その有効性を示す最大のエビデンスといえるでしょう。
アロマテラピーには、高品質な精油を使用
精油(エッセンシャルオイル)のグレード
精油の香り成分は、脳に直接働きかけますし、キャリアオイルで希釈してマッサージに使うことで皮膚から血液中に吸収される成分もあるので、精油にしろ、キャリアオイルにしろ、本当に質のいいものを厳選しなければなりません。
現在の日本には明確な品質基準はありません。しかし、精油(製品)には、いくつかのグレードがありますので、みておきましょう。
◆インダストリアルグレード (Industrial):
産業用に使用され、いわゆる大量生産用のオイルです。特徴としては、
- 合成香料や安価なキャリアオイル(希釈材)が混ぜられているものが多い。
- 香りを楽しむための製品で、アロマテラピーには適さない。
- ポプリ用、消臭剤、ルームフレグランス、入浴剤などに使用。
◆100%ピュア&ナチュラルグレード (100% Pure and/or Natural):
- 合成香料はふくまれず、天然成分のみで構成されている。
- 農薬が残留している可能性や、品質にばらつきがある。
- かならずしも、高品質とは限らず、精油の抽出や保存方法により劣化している可能性もある。
- 一部のメーカーでは、「ピュア」と称しながら合成成分をふくむものもあるため注意が必要。
◆オーガニックグレード (Organic):
- 有機栽培された香料植物から採取され、農薬や化学肥料の使用が制限されている。
- 農薬をつかわないため、生産量は少なく、高価。
- 国際的なオーガニック認証を取得しているものが多い(ECOCERT、USDA Organicなど)
- 希少なオーガニックグレードは、化粧品業界の需要はあまりなく、需要はアロマセラピストの小さな市場にかぎられる。
- 高品質で純度が高く、アロマテラピーや医療グレード(メディカルグレードやセラピックグレード)として使用可能。
「アロマオイル」とよばれているのは?
市販の「アロマオイル」は、一般的にインダストリアルグレードに分類される製品です。薬理作用のある精油に対して、アロマオイルは人工的につくられた香りを楽しむためのものであり、アロマテラピーには適しません。
アロマテラピーで使用する精油は、オーガニックグレードにこだわりたいものです。とはいえ、実際に「オーガニック」を手にいれるのは至難の業。せめて「100%ピュア」を選ぶことが大切です。ただ、「オーガニック」や「100%ピュア」をうたっている精油が、名実ともそうであるかは、疑問が残るところですが・・・。
同じ精油/グレードでも香りや品質に違いが生じる要因
精油の品質は、多くの要因が影響します。ワイン同様に、同じ原料でも産地や生産者によって、品質には大きな差があります。精油も同様に、同じ植物から抽出されても、さまざまな条件により、香りや品質が大きく変わります。たとえば、
- 原料植物の生育条件
- 原料植物の収穫方法
- 精油を生産する場所
- 水蒸気蒸留の技術
- 蒸留釜の材質
などの要因によって、精油の品質は左右されます。
生産コストをおさえるため、蒸留時間を短縮したり、収穫から生産までの工程で手をぬくことで、品質グレードを偽装することは容易です。
また、産地偽装、蒸留回数の違いの隠蔽、合成香料の混入、安価なオイルでの希釈など、精油業界ではさまざまな「偽装」が蔓延しているといわれます。信頼できるブランドや、GC/MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)検査を公開しているメーカーの製品を選ぶことが重要です。
ストレス軽減に役だつ精油の種類と効果
精油の種類は何百種類とありますが、それぞれ異なった効能があります。それらのなかにはストレス解消に役だってくれるものも多く、心と身体の状態にあわせて選びます。
精油は単独、あるいは数種類をブレンドして、芳香浴、入浴、マッサージなどに使用します。マッサージに使用することで、より深いリラクセーション効果が期待できます。
ストレス軽減におすすめの精油をいくつかあげておきましょう。
不安をやわらげ、リラックス効果のある香り
★ラベンダー
ストレスでこわばった心身をリラックスさせ、イライラなどを和らげます。緊張からくる偏頭痛や高血圧にも効果があるといわれます。
相性のいい製油は⇒ゼラニウム、レモン、ローズマリー、クラリセージ、ユーカリなど
★カモミール・ローマン
精神安定作用が強く、不眠やストレス解消に効果的。鎮静作用があるため、感情をコントロールできないような不安や緊張、怒りがあるときに最適です。
相性のいい製油は⇒クラリセージ、マンダリン、ジャスミン、ラベンダーなど
★ゼラニウム
自律神経を調整する効能があり、ストレスや不安を和らげます。女性ホルモンの調整作用もあるため、生理不順や更年期障害の緩和作用も。(注意:妊娠中はNG)
相性のいい製油は⇒ペパーミント、ラベンダー、グレープフルーツ、ベルガモットなど
深い安眠を促す香り
★イランイラン
幸福感をもたらし、気分をゆったりさせる効果があります。不安や恐怖、緊張などの負の感情をしずめたいときに。
相性のいい製油は⇒オレンジスイート、ラベンダー、サンダルウッド、ジャスミンなど
★サンダルウッド
心をおちつかせ、深いリラックスへ導く効果があります。(注意:妊娠初期、うつ状態の人の使用はNG)
相性のいい製油は⇒ジャスミン、ローズ、パチュリ、フランキンセンスなど
★オレンジスイート
緊張をほぐし、不安で沈んだ気持ちを明るく前むきにしてくれます。安眠効果もあるため、ぐっすり眠りたいとき、就寝前に最適です。
相性のいい製油は⇒ブラックペッパー、マジョラム、ゼラニウム、ローズなど
★ネロリ
セロトニンの分泌をうながす作用があるとされ、心をおちつかせて安眠を誘います。極端に興奮した神経を鎮静し、精神状態を安定させるのにも有効。自律神経を整え、ストレスからの食欲不振や胃痛などにも。
相性のいい製油は⇒ラベンダー、ゼラニウム、レモン、ローズオットー、カモミール・ローマン、クラリセージなど
ライフスタイルに応じて選ぶ
精油は、症状によって選ぶばかりでなく、ライフタイルにあわせてチョイスするのも、おすすめです。
▼仕事が忙しい人:
長時間デスクにむかう場合、集中力を高める香り(ペパーミント、ローズマリー)や、疲れを癒す柑橘系の香り(レモン、オレンジ)が、気分をリフレッシュしてくれます。
▼子育て中の人:
子どもと一緒に過ごす空間では、ラベンダーやカモミールのような穏やかな香りがおすすめ。これらの香りは、親子ともにリラックスできる環境をつくります。
▼運動やアクティブな人:
運動後のリフレッシュには、ユーカリやペパーミントが筋肉の緊張を和らげます。また、レモングラスはエネルギーの補充にも適しています。
▼リラクセーション重視:
瞑想やヨガをおこなう際には、サンダルウッド、ミルラ、フランキンセンスなどが深いリラクゼーションを助け、内面に集中する環境を整えてくれます。
アロマテラピーの実践的な活用法
アロマテラピーを日常にとりいれる方法はいろいろありますが、手軽に実践できるストレスケアとして、芳香浴、アロマバス、そして、アロママッサージをご紹介しておきましょう。
ディフューザーを利用し、自宅で芳香浴
自宅で簡単にアロマテラピーを楽しむ方法として、「芳香浴」があげられます。芳香浴とは、香りを嗅ぐことで、その成分を鼻からとりこみ、脳や神経系に働きかけるアロマテラピーの手法です。
芳香浴にディフューザーをつかえば、精油を空気中に拡散させ、部屋全体に香りを広げて、心地よい空間をつくることができます。リビングや寝室など、お気にいりの空間で香りを楽しむことで、リラックス効果やストレス解消を得ることができます。
ディフューザーには、超音波で水と精油を霧状にして拡散させる超音波式ディフューザー、精油をそのまま微粒子にして拡散させるネブライザー式ディフューザー、キャンドルの熱を利用して精油を拡散させるキャンドル式などがあります。それぞれの特徴に応じてつかいわけますが、濃度の高い香りを楽しみたい、精油の純粋な香りを求めるなら、ネブライザー式がおすすめです。
なお、はじめて自宅でディフューザーをつかっての芳香浴をする場合は、20~30分程度からはじめます。香りが強すぎると感じたら、精油の量を減らす、あるいは、換気をすることで調整してください。
◆そのほかの芳香浴
ディフューザーを使用する以外にも、嗅覚をつうじて香りを楽しみ、リラクセーションやストレス軽減をはかる芳香浴の方法として、
- アロマスプレー:精油を希釈したスプレーを空間やリネンに噴霧。
- スチーム吸入:熱湯に精油をたらし、蒸気を吸入。
- アロマキャンドル:香りつきキャンドルを灯し、香りを楽しむ。
- ハンカチやアロマストーン:精油をたらしたハンカチや専用ストーンをつかって香りをもち歩く。
などの方法があります。用途やシチュエーションに応じて、最適な芳香浴の方法を選ぶことで、アロマテラピーの効果を効果的にひきだすことができます。
ディフューザーを使う、使わないにかかわらず、芳香浴は手軽でありながらも効果的なアロマテラピーです。ただ、合成香料や不純物がふくまれる安価な精油製品を使用すると、頭が痛くなる、気持ち悪くなるなど、「香害」になります。使用する精油の品質にはこだわりましょう。
アロマバスで心身ともにリラックス
一日の緊張をほぐし、身も心もリラックスしてストレス解消をめざすには、いい香りでバスルームをみたすアロマテラピーがピッタリ。
精神的にリラックスすることで自律神経やホルモンのバランスの乱れが整えられます。ゆったりとした気分で完全にリラックスし、心ゆくまで入浴を楽しみましょう。
浴槽のなかでは、気になる部分(脂肪)を軽くマッサージするのもいいでしょう。風呂の湯に加えられた精油成分の一部が皮膚から吸収されることは、放射性同位元素をつかった科学研究で証明されています。
お湯はぬる目が基本で、夏は38℃くらい、冬でも40℃くらいにとどめ、ジワッと汗ばむまで、15分程度つかるようにします。温度が高いと、交感神経が優位になるのでリラックスできません。
精油は揮発性が高く、お湯に浮くので、直接お湯にたらすと早く香りがとんでしまいます。香りを楽しみ、最大限リラックス効果を得るには、精油10~15滴を大さじ1~2杯の塩に混ぜ、それをお湯に混ぜるようにします。
入浴できなときには、洗面器などにお湯をはり、精油をお湯に混ぜて、足湯を楽しみましょう。
アロママッサージで深いリラクセーション
アロマテラピーのマッサージは、精油の香りとマッサージのタッチング効果をくみあわせることで、心身のリラクセーションや血行促進をはかる方法です。
アロマテラピーのなかでも、マッサージは、「もっとも効率よく身体への働きかけを実感できる方法」のひとつといえます。筋肉の緊張緩和、血行促進によるむくみ改善、深いリラクセーションによるストレス解消などの効果があります。
プロによる施術をうけるのは、とても気持ちよく、リラクセーション効果抜群ですが、自分でセルフマッサージをおこなうことも、アロマテラピーを楽しむ有効な方法です。忙しい日々のなかで、自分自身の身体に触れ、心地よさを感じる時間をつくることで、自己ケアの意識も高まります。
◆簡単にできるセルフマッサージ
●手足のマッサージ:
キャリアオイルに好みの精油を1~2滴加え、手のひらや足の甲、指先を軽く揉みほぐします。ラベンダーやオレンジの精油がおすすめです。
●首や肩のケア:
デスクワークで疲れた首や肩に、ペパーミントやローズマリーをブレンドしたオイルを使用し、円を描くように優しくほぐします。
●お腹のマッサージ:
消化を促進したい場合は、時計まわりにお腹を撫でるようにマッサージ。ジンジャーやカモミールが効果的です。
●むくみや冷え症、セルライトケアにも:
ジェニパーベリー+サイプレスは、むくみ解消の定番コンビです。さらにレモンを加えても◎。冷え性が気になるなら、サイプレスにジンジャーとブラックペッパーを加えてマッサージしてみましょう。
◆いつマッサージするのがベスト?
マッサージは大体いつおこなってもかまいませんが、どうしても避けるべきなのが食後の2時間。また、空腹時というのも適切ではありません。
身体がよく温まり、体全体の筋肉も、精神的にもとてもリラックスして、ゆったりした気分でできる風呂あがりは、マッサージタイムとしてベストでしょう。
ただし、精油(エセンシャルオイル)をつかってマッサージをする場合は、汗が完全にひいてからに。皮膚は排泄機能が働いている状態のときに精油の有効成分は吸収してくれません。
また、アロマバス後にマッサージをおこなう場合は、マッサージオイルにブレンドされている精油と同じものを1~2種類、入浴にも使用するのがおすすめです。異なる精油を使うと、それぞれの作用が打ち消しあう可能性があるため、統一することで効果を最大限にひきだせます。基本的に、アロマバスとマッサージには同じ精油を使用するのが理想です。
安全にアロマテラピーを楽しむために
精油をマッサージなど皮膚に塗布して使う場合、一部の成分が皮膚から吸収され、「薬」同様に身体に作用するので、正しくつかえば目的とする効果がしっかりでてくれる反面、使いかたをまちがえると、さまざまなトラブルにつながります。マイナスの影響なしに最大の効果をあげるために、注意すべきことを見ておきましょう。
皮膚につける場合は、キャリアオイルで希釈
精油を皮膚につける場合には、そのまま使うのではなく、かならずベースとなるオイルで希釈します。この基本となるオイルは、キャリア(体内に運ぶ)オイルとよばれます。 キャリアオイルは、植物の果実や種子から抽出される植物油で、精油ともなじみやすいものです。
化粧品グレードに精製された100%ピュアな植物性オイルは、食品用と比較し、肌への刺激が少なくなるように精製されており、純度の高いオイルは、肌への浸透性も高まります。
アロマテラピーでよく使われるキャリアオイルをいくつかご紹介しましょう。
◆スイートアーモンドオイル
アーモンドの種子から抽出される植物オイルで、なめらかで滑りが良く、マッサージにもっとも使用されるオイルです。ビターとスイートがあるのですが、アロマテラピーには、スイートのみが使われます。
オレイン酸がその主要な成分であり、微量のグリセリドやリノール酸をふくんでいます。おだやかな使い心地のオイルなので、敏感肌の人でも安心して使用できます。ただ、市販のオイルは、しばしば不純物が混入していることがあるので注意が必要です。
◆ホホバオイル
ホホバオイルは、南米やオーストラリアなどの砂漠地帯に生息する植物から抽出したオイルで、人の脂肪とよく似た構造をしているため、肌への浸透率が非常に高いものです。しっとり感がほしい時、乾燥肌の人に最適です。
化学変化をおこしにくく、油焼けしにくいのも特徴です。アミノ酸やミネラル、ビタミンA・D・Eを豊富に含み、細胞の再生を促す作用や殺菌作用もあります。
◆グレープシードオイル
その名のとおり、グレープ(ぶどう)のシード(種)から抽出される希少なオイル。非常にノビが良いため、広範囲のマッサージなどに適しています。オレイン酸やリノール酸、「若返りのビタミン」とよばれるビタミンEもタップリ。ビタミンEの含有量は、オリーブ油の約3倍といわれます。サラッとした感触で、血行を促進し、体の緊張をほぐして、細胞を活性化してくれるオイルです。
オイリー肌の人に、とくにおすすめです。
ほかにもキャリアオイルとし、さまざまなオイルが使用できますが、使用目的にあったもの、肌質にあったものを使用することが大切です。精油同様、キャリアオイルも合成物質や不純物がふくまれていないピュアなもの、化粧品グレードのものを選ぶようにしましょう。
お肌の状態や目的にあわせてキャリアオイルを選べるようになると、アロマの世界が、さらに広がります。
希釈濃度を守る
自分の好みや体調にあわせてマッサージオイルをつくるために不可欠なのが、精油と植物油の比率、「希釈濃度」です。適切な希釈濃度や計算方法について、確認しておきましょう。
アロママッサージ用オイルの「希釈濃度」とは、植物油に対して精油が何%入っているかの目安となる数値です。健康な成人が身体に使用する場合は2.5%、顔に使用する場合は1%が基本です。ただし、体調や年齢、肌の状態、香りに対する感じかたによっては、通常使用する濃度より低い希釈濃度での使用が望ましい場合もあります。
◆希釈濃度の計算
キャリアオイル(ml) × 希釈したい精油の% (小数点で) ÷0.05ml(1滴分指標) = 使用する敵数
例: 30㎖ x 0.02 ÷ 0.05㎖ = 12 滴
※ 精油1滴分の指標は0.05mlとしていますが、ボトルのドロッパーの形状や精油の種類によって0.02-0.06㎖くらいの幅があります。したがって、ここでの計算は、あくまでも目安です。厳密な容量換算が必要な場合は、正確な1滴あたりの容量を確かめましょう。
正しくブレンドして使う
エセンシャルオイルは単独でも、いくつかを組みあわせて使うこともできます。組みあわせることで効果アップをはかるためには、精油の種類やそれぞれの相性、使用すべき量などが適切である必要があります。そうでないと、期待する効果が得られない、あるいは逆に、作用が強すぎ、身体に「毒」として作用してしまうこともあり得ます。
「適当にブレンドすれば、いっか~」などと勝手に思わず、アロマテラピーの本などに載っているレシピをきちんと守ってブレンドするか、専門家に相談しましょう。
使用前には、かならずパッチテストを
精油には強い成分がふくまれているため、アレルギー反応や肌の炎症をひきおこすことがあります。肌に使う場合は、使用前にはかならず「パッチテスト」をして、問題ないか確認してください。
◆パッチテストのやりかた
実際に使用する濃度の2倍程度にキャリアオイルで薄めた精油をティッシュにたらして、二の腕の内側の目立たない場所に、直径8~10mm程度ぬります。アレルギーがあれば、通常30分以内にかゆみや発疹がでます。異常がでたらすぐにふきとって、よく洗ってください。
人によっては反応がおきるまでに時間がかかるので、2日間は様子をみたほうがいいでしょう。また、アレルギー反応がでた精油は、芳香浴にも使用はさけるようにします。
なお、敏感肌のかたは、精油の濃度を1%以下に薄めることが推奨されます。
特定の状況での注意点
アロマテラピーは自然由来の療法であり、多くの人々にとって安全に楽しむことができますが、特定の状況では注意が必要です。
妊娠中の使用
妊娠中はホルモンバランスが大きく変化するため、精油によっては刺激となって、母体や胎児に影響をおよぼす可能性があります。とくに、妊娠初期は流産リスクを高める恐れがあるため、慎重な使用が必要です。
クラリセージ、ローズマリー、ジャスミン、ペパーミントほか、妊娠中には避けたほうがよい精油は多々あります。一方で、ラベンダーやカモミールなど、比較的安全とされますが、使用前には医師や専門家/アロマセラピストに相談すべきでしょう。
アレルギー体質や敏感肌の人
精油には強い成分がふくまれているため、アレルギー反応や肌の炎症をひきおこすことがあります。とくに、柑橘系精油(オレンジ、レモン、ベルガモットなど)は、肌に塗布すると紫外線感受性を高める光毒性のリスクがあります。また、敏感肌の方には、精油の濃度を1%以下に薄めることが推奨されます。
高齢者、特定の疾患をもっている人
高齢者、また、喘息、てんかん、高血圧などの疾患がある人は、既往症や服用している薬剤との相互作用に注意が必要です。特定の精油が症状を悪化させる可能性があります。たとえば、ローズマリーやユーカリ精油は喘息を誘発する可能性があり、高血圧の人にはタイムやローズマリーなどの精油が適さない場合があります。疾患をかかえている人、処方薬などを服用している人は、アロマテラピーを試す前にかならず専門家に相談してください。
低年齢の子への使用
小児は、成人にくらべて精油の成分に敏感に反応する場合があります。とくに、ユーカリやペパーミント精油は、小さな子供にとって刺激が強すぎることがあるため、使用は避けるべきです。
とくに乳幼児への精油の使用は、呼吸器疾患などのリスクがあるため危険です。直接の使用でなく、近くで使用するだけでも問題ともいわれているので、ご注意を!
ペットがいる環境での使用
犬や猫などのペットは、人間とくらべて嗅覚が非常に鋭く、精油に対する感受性も高いとされます。また、一般的に草食動物にくらべて肉食動物は、化学物質の代謝酵素が少なく、精油のような脂溶性物質の代謝能力が低いとされます。このため、一部の精油(とくに柑橘系やティーツリー)は、ペットにとって有毒となります。ペットがいる場合には、使用する精油の種類や量に注意し、十分に換気をおこなうようにしましょう。
アロマテラピーをより安全に楽しみ、効果を得るため、自分の体調や環境にあわせた精油を選び、適切な方法で、香りの力を最大限に活用してください。
まとめ
- アロマテラピーは、植物の香りを活用して心身のバランスを整える自然療法。
- 嗅覚や皮膚吸収を通じて脳や自律神経に働きかけ、ストレス軽減やリラックス、睡眠の質向上などの効果が期待できる。
- 精油の品質や使い方によって効果に差が出るため、高品質な精油を選び、適切な方法で取り入れることが大切。
- 安全に楽しむためには、希釈濃度を守り、パッチテストを行うなどの注意が必要。特に妊娠中や疾患がある場合は、使用を控えるべき精油もある。
アロマテラピーは、日常に手軽にとりいれられるセルフケアの一つです。自分にあった香りを見つけ、心と身体を癒す時間を大切にしましょう!
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